翌月に決算期を控え、オフィス内はどこもかしこもピリついていた。
みんな資料を作成したり、数字を確認したり、上司からの急な修正依頼に追われている。俺も例に漏れず、朝からずっとExcelとにらめっこしていた。
そんな中、昼休みのフロアに突然活気が戻った。
同僚A「おおっ、超蜜やきいも!?」
同僚B「マジで嬉しい!ありがとう!」
書類に埋もれ、昼食後の眠気に負けていた俺も、さすがに気になって顔を上げた。なにやら、さつまいも博に行った総務のMさんが、おみやげを配っているらしい。配っているのは、高級チョコでも流行りのマカロンでもなく、まさかの焼き芋。
…ちょっと待て。
(キラキラ女子のMさんが、焼き芋?)
彼女は明るくて気配り上手、いつも社内の雰囲気を和ませる存在だ。
オフィスカジュアルを華やかに着こなし、センスのいいネイルが映える手元で、焼き芋の入った袋を丁寧に配っている。そのギャップに戸惑いを隠せない俺は、受け取った同僚たちが大喜びしてる様子を訝しげな表情で見つめていた。
同僚A「え、これ本当に甘くてやばいよね!」
同僚B「普通の焼き芋と違って、トロトロすぎてスプーンで皮ごとすくって食べるんだ」
あちこちで盛り上がる声、焼き芋でこんなに騒ぐか?
焼き芋なんて、どれも同じだろ。ホクホクして甘くて、まぁ普通に美味しいやつ。それに、どうせヘルシー志向の人が好んで食べるやつだろ?スイーツみたいな満足感はないし、ただの芋じゃん…。
そう思っていると、Mさんが俺のデスクにもやってきた。
Mさん「はい、おみやげどうぞ!」
と、笑顔とともに手渡される”超蜜やきいも”。
一応、笑みを浮かべて「ありがとう」と受け取るが、内心ではやっぱり(焼き芋なんてどれも同じでしょ?)という思いが拭えない。
正直、お菓子とかのほうがテンション上がるし…。まぁでも、せっかくもらったし、あとで食べるかとデスクの端に置いた。
そして午後の休憩時間。
決算資料をまとめていたら、思いのほか集中してしまい、気づけば15時を回っていた。ちょっと小腹が空いたので、さっきの焼き芋を開封。袋から取り出した瞬間、ちょっとした違和感を覚えた。
(…ん?なんか、見た目からして違うぞ?)
アルミホイルに包まれていた焼き芋は、表面がねっとりとしていて、ところどころ剥かれた皮の部分から果肉をのぞかせており、まるで水玉のようになっている。そしてアルミホイルの鎧を脱ぎ去った焼き芋は、少しの振動でも小刻みに震えていて、その柔らかさが指先に伝わってくる。
ゴクンと生唾を飲み込み、ひと口頬張った瞬間、衝撃が走る。
「…え? なにこれ、ヤバッ…!」
口に入れた途端、ねっとりとろける食感。
まるでスイートポテトのような濃厚な甘さ。
いや、それ以上に“超蜜”ってこういうことか!?と思わされる深いコクとしっとり感。
これ、本当に砂糖とか使ってないのか?
なんでただの焼き芋が、ここまでスイーツみたいになってるんだ?
思わずスマホを取り出し、”超蜜やきいも”で検索。
すると、SNSには「まるでスイーツ」「人生変わる焼き芋」「もう普通の焼き芋に戻れない」との投稿がズラリ。
…俺だけ、知らなかったのか!?
さっき適当に「ありがとう」と受け取った自分が急に恥ずかしくなった。
もしもらわなかったら、一生この味を知らずに過ごしていたのかもしれない…。
そして気づけば、会社のチャットでMさんにメッセージを送っていた。
「あの焼き芋、マジでやばかった。どこで買えるの?」
俺の”焼き芋の常識”、たった一口で崩壊しました。
投稿者:こまつまるさん

こまつまるさん!レビューという形で括れないほどの大作…
超蜜®︎との出会いを克明に描いてくださり、ありがとうございました!
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